オリーブオイルの4つの仕事 ①コクを与える


これから何回かにわたってオリーブオイルが料理に与える4つの作用についてそれぞれお話していこうと思いますが、今回は「コク」を与えるお仕事

オリーブオイルと言えば、イタリア料理のパスタ料理に使うのが最もよく知られた使い方、アーリオオーリオなんてのがその定番。でもそれ以外にとなると、サラダにかけたり、パンにつけたりくらいしか思い浮かばないんじゃないでしょうか。

あ、あった、お魚のカルパッチョ
カルパッチョって料理はもともとは赤身の牛生肉をオイルとニンニクとパルミジャーノチーズで頂くもので、お皿の白とお肉の赤の組み合わせがカルパッチョという画家の色遣いに似てるということでついた料理名。だからお魚のカルパッチョってのは本当はおかしいんですが、そこは食のアレンジ世界一の日本人。なにを隠そうお魚のカルパッチョを発明したのは押しも押されぬイタリアンの巨匠、ラ・ベットラの落合勉シェフなんです。

でも今回お話しするのはカルパッチョではなくて「お刺身」
「ん?おんなじじゃねーか」
カルパッチョっていうとたいがいオリーブオイルの他にビネガーなりレモンなりの酸を加えています。酸を加えるということは「さっぱり」させること、いわばドレッシングをかけたのと同じこと。今回のテーマのコクを与えるがちょっとぼやけてしまいます

わたくしどもの作る澳 OKI Oliveのお取引先の飲食店の多くは日本料理店です。そこでのオリーブオイルの使い方の一つとしてあるのが、お刺身にかける使い方。
中でも最もその味の変化幅が大きく出てくるのが「フグ刺し」。フグ刺しといえばもっぱらおろしポン酢におネギを巻いて頂きます。でも大概の日本人が正直なところそんなに美味しいって思ったことないんじゃないでしょうか?
この食べ方、私にとっては、ポン酢の酸っぱい味だけが舌の上にやってきて、あとはゴムのようにくちゃくちゃと噛み切るフグの食感が残るだけ。なんでみんなこんなゴムみたいな食べ物を高いお金払ってありがたがって頂いているんだろうって、とってもネガティブな感想を持ち続けて半世紀の人生を過ごしてきました。

フグは油脂分が極めて少ない淡白なお魚の代表選手、だったら油分を補ってあげるのにオリーブオイルをかけたらどうか。ほんの少しのお塩と澳 OKI Oliveを垂らして初めてフグ刺しを食べた時の衝撃は忘れられません。
「フグってこんなにウマみが強いお魚だったのか!」
口に入れた瞬間に感じるおいしさでなく、嚙むたびにじわじわといつまでもあふれ出てくる上品なうま味。タイでもクエでもありません、フグこそが魚の王様だと実感した瞬間です。
日本料理は油に頼らずに出汁のうま味で勝負するもんだ、が一般的な日本料理の考え方ですが、実際の現場ではそんなことはなくて、評判の良い日本料理店で料理長が
「今日は氷見産のバリバリに脂ののったブリですよ!」
なんて口上を聞かせていますよね。やせ我慢はイケません、甘みとともに油って本能的にウマいんです。その二つが合わさったうな丼や牛丼なんて最強のうまさですよね。
クラッシックなフランス料理で必ず登場したのが舌平目のムニエル。これも舌平目というどちらかというと淡白なお魚をバターという油脂をたっぷり使うことでうま味をあげるお料理。

じゃ、オリーブオイルの代わりに溶かしバターでフグ刺しを食べたらどうなの?
オリーブオイルの特徴の一つがしつこい油っこさが少ないこと。日本料理がそのうま味を油に頼らないのは、素材の持ち味を邪魔しない油脂があんまり見当たらないからなんです。氷見産のブリに乗った脂はオメガ3脂肪酸を主成分とする上質な油脂で、コクはあるけどしつこくないから、淡を旨とする日本料理の文脈でも違和感がないんです。
しつこさの少ないオリーブオイルであれば日本料理の繊細な素材の持ち味を崩すことなく、うま味としての油のコクを加えることができるわけです。
他にも、魚介類であればホタテ、イカ、タコ、アマエビなんかもほんの少しオリーブオイルを垂らしてあげると抜群にうま味を感じやすくなります。そしてこういった淡白なものはお醤油でなくお塩と一緒に頂くとより素材の持ち味を生かすことができます。
同じ魚介類で、タイヤマグロなんかもオリーブオイルをかけるとおいしくなります。この場合は塩でなくお醤油と合わせることで、より素材の持ち味を引き立てることができます。お醤油とオイルの相性の良さはまた別のコラムで紹介します。

魚介類以外では、お豆腐や湯葉にかけると味がしっかりして華やかなおいしさになります。お豆腐は上質な太白ゴマ油で食べても美味しくなります。でも、やはりオリーブオイルと味比べをすると、ゴマ油はやや重たさを感じてしまい、日本料理として成立させるには少し無理がある気がします。

「コクはあるのに油っこくない」これがオリーブオイルの特徴の一つ。だから日本料理にとても良く合うんです。でも一つだけ但し書きが
「上質なオリーブオイル」を使うこと。

オリーブオイルの持つ残りの3つの働きを紹介しながら「上質なオリーブオイル」の意味合いもお話していきます。